会社で仕事を任されるのは、やりがいがあって嬉しいもの。
でも、まさかSDGsの仕事を担当することになるとは。
慣れない仕事とはいえ、大失敗となるのは避けたい。
まわりの先輩も手掛けたことのない仕事をいったいどのように進めればよいのか?
SDGsの実践方法に関して多くの本が出版されているけれど、実務担当者向けに解説されたものはないに等しい。
ほとんどが経営者向け。
でも、経営者と違って、実務担当者は何かをやるに当たって必ず上司に納得してもらう必要があるなど、経営者向けの解説書では役に立たない。
そこで会社員歴25年の私が、会社員としての経験を踏まえ、経営者向けに書かれた複数書籍のエッセンスを実務担当者向きに読み替えて解説。
この記事を読むことで手がかりもなく途方に暮れることはなくなります。
上司も納得のスタートを飾れますので、ぜひ最後までご一読ください。
会社がSDGsに取り組むべき理由やメリット
まずは企業がSDGsに取り組むべき理由や、取り組むと得られるメリットを理解しておきましょう。
あなたに仕事を任せた上司は理解しているでしょう。
でも、あなた自身が理解していないと、仕事の進め方にずれが生じてしまいます。
SDGsは企業にとってブランディングの強い味方になる
SDGsはブランディングの有効なツールです。
社会的にSDGsへの関心が高まっています。
なので、SDGsへの取り組みは企業イメージの向上に直結。
これまでの中小企業は、予算や人材が豊富な大企業に比べてブランディングは不利でした。
しかし、SDGsへの取り組みは小規模なことからでも開始できます。
したがって、規模の小さい中小企業ほど、SDGsはブランディングの有効なツールです。
SDGs対応でライバルより優位に立てる
SDGsへの取り組みを早く始めていれば、それだけ取引先選定においてライバルより優位に立てます。
かつてのISOやPマークのように、企業が取引相手を選定する際の基準の1つにSDGsがなりつつあるからです。
例えば、アップルは2018年4月に同社製品向けの部品、材料などを製造するサプライヤーに再生可能エネルギー電力への転換を強く推奨しました。
時期は前後するものの、国内サプライヤーであるイビデンが2017年3月にアップル向け製品の製造を再生可能エネルギーで100%賄うと発表。
続いて、アップルにプリント基板用の絶縁材を供給している太陽インキ製造株式会社も、2018年5月に100%再生可能エネルギー電力化を宣言しました。
これらは、部品や材料の調達元がサプライヤーにSDGsへの対応を要請し、サプライヤーが応じた事例です。
このように他の企業から仕事を受けている企業にとって、ライバルに差を付ける道具としてSDGsは有効ですね。
会社がSDGsに取り組む目的
会社でできることを探す前に、何のためにSDGsに取り組むのか上司に確認しておきましょう。
なぜなら、どのような目的でSDGsに取り組むのかによって、取るべき戦略が異なるからです。
ここでは次の書籍を参考に、SDGsに取り組む目的と戦略について解説していきます。
会社がSDGsに取り組む目的と、目的に応じた戦略は次の2通り。
目的 | 戦略 |
---|---|
ブランドイメージの向上 | SDGsに配慮した業務運営を実践 |
売上の拡大 | SDGsに配慮した商品やサービスを販売 |
①ブランドイメージの向上
ひとつめの目的は、SDGsを通して企業のブランドイメージの向上を図ることです。
そのためにSDGsに配慮した業務運営を実践します。
例えば、障がい者やシングルマザーのように、これまでの一般的な働き方では制約を受けやすい人たちにも働きやすい環境や人事制度を会社に導入するなどです。
そうすれば「8 働きがいも経済成長も」などのSDGsへの貢献を世間にアピール可能。
このようにして世間から健全な企業だと会社を評価してもらいます。
②売上の拡大
ふたつめの目的は、売上の拡大を図ることです。
そのためにSDGsに配慮した商品やサービスを販売します。
有名な例は住友化学。
住友化学は、工場用として作っていた網戸の糸に防虫剤を練り込みました。
防虫効果が3年間持続するよう、薬剤が徐々に表面に染み出すように処理されたものです。
これを蚊帳として、蚊が媒介する感染症(マラリア)に苦しむアフリカで販売。
現地でのマラリアの蔓延防止につながり、「3 すべての人に健康と福祉を」などのSDGsに貢献しました。
このように社会課題を解決しつつ売り上げ拡大につなげます。
中堅・中小企業におすすめの目的/戦略
上記2組の目的・戦略のうち、中堅・中小企業など規模の大きくない会社でできることは、
①ブランドイメージの向上を狙ってSDGsに配慮した業務を運営すること
です。
なぜならば、もう一方の「②売上の拡大を狙ってSDGsに配慮した商品やサービスを販売」するには、次の2つのリソースが必要だからです。
- 社会課題の解決につながる商品やサービスを産む開発力
- 社会課題を抱える消費者に商品やサービスを届ける販売ルート
これら2つのリソースを合わせ持つのは比較的規模の大きい企業に限られると思われます。
なので、中堅・中小企業にはSDGsに配慮した業務運営がおすすめです。
他の会社でできたSDGsの事例
自社でできることを考える時、先行事例を参考にするとアイデアが広がります。
特に、リソースがそれほど豊富でない中小企業の成功例は、自社でもできるんじゃないかと勇気をもらえますね。
上司によっては、先行事例のないアイデアを説明すると「そんなこと実現できるか?」と懐疑的になる人がいます。
失敗を恐れる人には成功例を見せるのが一番。
ここではSDGsに取り組んだ中小企業の成功例をふたつ紹介します。
三承工業株式会社
三承工業は、社内アンケートの結果をきっかけに女性が働きやすい職場の実現に向けて取り組みを開始。
さまざまな施策の結果、男性中心の建設業にあって社内女性比率56%を達成するに至りました(2021年12月現在)。
2021年には、女性の活躍推進に関する取り組み状況が優良な事業主として「えるぼし認定」を取得しています。
会社概要
会社名 | 三承工業株式会社 |
事業内容 | 外構工事 建築(新築、リフォーム) プラント設備 |
社員数 | 53名 |
受賞歴 | 第2回ジャパンSDGsアワード (2018年) えるぼし認定 (2021年) |
カンガルー出勤と、チーム夢子による改善活動
社内女性比率56%の達成に至るまでの施策のうち、主なものは「カンガルー出勤」と、「チーム夢子」による改善活動です。
「カンガルー出勤」は、子どもと一緒に出勤できてフルタイムで働ける制度。
この制度により子供を持つ女性も安心して働けるようになりました。
また、「チーム夢子」は、女性社員だけでなく、社員の奥さんや協力業者の奥さんも交えた女性中心チーム。
この「チーム夢子」により、女性が働きやすい職場の実現に向けて次の3点などの社内環境が整備されました。
- キッズルームの設置
- トイレの男女分離
- ノー残業デーの設定
これらの施策が社内の女性活躍を促進。
さらにジェンダー平等などSDGsの普及啓発にも取り組んだことが評価され、2018年には第2回ジャパンSDGsアワードを受賞しています。
株式会社エムアールサポート
エムアールサポートは、ICTの活用によって、限られた人にしかできなかった仕事を誰にでもできる仕事に転換。
その結果、全国の障がい者に仕事を提供できるまでになりました。
その仕事は、都道府県ごとに定められた時間当たりの最低賃金以上が払えるもの。
なかには作業に習熟して時間当たり1,500円以上を稼ぐ人も現れるほどになっています。
会社概要
会社名 | 株式会社エムアールサポート |
事業内容 | 測量調査・測量美術・ICT舗装修繕 |
社員数 | 13名 |
受賞歴 | 第4回ジャパンSDGsアワード (2020年) |
ICTの活用で危険作業を軽作業に転換
エムアールサポートは、道路の舗装や修繕に必要となる、路面性状の調査や測量を請け負っています。
路面性状とは道路表面の状態を指し、測量は道路の形や幅・長さなどを測定します。
これらの作業は、実施する際に車が往来する車道に人が出なければなりません。
危険と隣り合わせの作業であるため、これまでは限られた人だけが実施できました。
そこでエムアールサポートは、ツールの操作を覚えれば誰でも簡単にこれらの作業をできるように改善。
具体的には、次のようなICTを活用した作業への組み替えです。
- カメラを積んだドローンを上空で移動させながら道路の写真を連続撮影
- 車など不必要な映り込みを画像から除去
- 横断歩道や路面標識などの必要画像のみを残して、多数の画像を繋ぎ合わせ
画像処理はパソコンで操作するので性別や年齢、障がいの有無にかかわらず作業が可能。
テレワークでも行えるので、全国どこででもできます。
やがて全国から測量の仕事が舞い込むようになったことから、仕事を請負った都道府県にある障がい者支援施設に作業を委託するようにしました。
委託に当たっては、技術者を講師として各施設に派遣し障がい者にツールの操作を直接指導します。
しかし、マニュアルも整備されていることから、1日でほぼひと通りをマスター可能。
このようにしてエムアールサポートは、性別や年齢、体力や障がいの有無に左右されない雇用を創出。
「5.ジェンダー平等を実現しよう」「8.働きがいも経済成長も」「10.人や国の不平等をなくそう」などのSDGsに貢献し、ジャパンSDGsアワードの受賞に至っています。
上記2例以外にもいくつか成功例を別記事にて紹介しています。よろしければ、こちらもご参照ください。
SDGsで会社でできることを見つける方法
ここでは自社でできることの見つけ方を解説。
SDGsに取り組む戦略として「SDGsに配慮した業務運営の実践」を採用する場合について、次の書籍を参考に説明します。
自社でできることを見つけるためには、下図のように2つの視点を縦串に、社内のESG(環境/社会/組織統治)問題の4領域を縦断的に調査すべきです。
なぜならば解決すべき社内のESG問題を網羅的に調査でき、なおかつ自社ならではの取り組むべきことを見つけられるから。
例えば、上記で解説した三承工業の事例は、「働きやすさ」×「スタッフの立場・属性」で社内を見渡し、女性が働きやすい職場の実現に取り組んだ結果。
同様に、エムアールサポートの例は、「人材の多様性」×「部門の業務特性」で社内業務の改革を検討し、危険な作業を誰でも扱える作業に転換した結果と捉えられます。
このように2つの視点と4領域を掛け算して検討すると、高い効果の得られる「自社でできること」を発見できます。
また、網羅的に調査できるので、ぱっと見で重要そうな目立つものにとらわれずに済みます。
あなたはこんな経験ありませんか?
コレと思う案を上司に提案したところ、視野の狭さを指摘された。改めて自分の案を見直すと、思い込みで最初から狭い範囲に絞って調査・検討していた。
上記の方法に従えば、そのような失敗を防ぐこともできます。
社内ESG問題の4領域
ここでは、自社でできることを見つけるために調査すべき、社内のESG(環境/社会/組織統治)問題の4領域を解説します。
法令順守/環境負荷
- 自社に適用される法令を順守しているか
- 自社から生じる環境負荷について対策しているか
これら2点は、業務運営の社会性を向上させる上で基本的なものです。
例えば、営業や商品配送などで社員が車を運転するときに交通ルールを順守しているか?
工場から排出する廃液や排気ガスを適切に処理しているか? などです。
地域社会との関係
地域社会と企業は密接不可分な関係にあります。
例えば、宅配便のヤマト運輸は、日本全国の津々浦々まで荷物を運ぶことが生業。
しかし、地方が衰退しその土地に住む人々が減ってしまうと荷物の流通量が減り、事業の採算が合わなくなります。
このように地域社会の発展と企業のビジネスは密接不可分です。
したがって、企業は地域社会の一員としてビジネス以外でも積極的に地域社会と関わる必要があります。
具体的には、地域社会の要望をくみ取る機会を作り地域貢献活動をするなど。
そのような活動がビジネスの社会性を向上させ、結果的に多様なメリットが返ってきます。
働きやすさ
自社の働きやすさをチェックするポイントは、例えば以下のような点です。
- 職位/立場の違いを超えて気軽に意見表明や改善提案できるか
- 職位/立場に関係なくお互いを尊重しているか
- 組織が責任を持って社員に業務方法を教えているか
- 賞罰が、明示された基準に基づき一貫しているか
制度だけでなく、人間関係やコミュニケーションのあり方にも気配りが必要。
人材の多様性
自社が多様な人材を受け入れる環境であるかは、例えば次のようなチェックポイントでわかります。
- 性別ごとに、トイレや更衣室が準備できているか
- 業務割り当てや人材登用を性別で決めていないか
- 障がいの性質に応じて業務環境を提供しているか
- 宗教的行事への参加を拒否しにくい雰囲気がないか
- 出身や性的指向、政治信条などを人事評価対象としていないか
- 他社のアイデンティティを暴露/侮辱していないか
これらはSDGsの基本理念「誰一人取り残さない」に通じるもの。
役立つ2つの視点
上記4つの領域を俯瞰するときに2つの視点を意識すると、自社ならではの取り組みを見つけられます。
- 各部門の業務特性に関連するものは何か
- スタッフの立場/属性に関連するものは何か
自社ならではの特殊性に目が向くと言うことは、それだけ問題を深掘りできています。
なので、問題への対策についても練られたものを考えられますね。
【SDGs】会社でできることと、その見つけ方のまとめ
- 企業がSDGsに取り組むメリットはあるが、目的に応じて取るべき戦略が異なる
- 規模の小さい企業はブランドイメージの向上を狙った方が効果的
- 会社でSDGsとしてできることを見つけるには、社内ESG問題の4領域を2つの視点で調査/検討すべき
本記事は会社で業務としてできることと、その見つけ方を解説しましたが、個人として職場でできることについては次の記事に解説しています。
こちらも併せてご一読ください。よろしくお願いします。
コメント